「感謝」と「思いやり」

1998/5/11

最近私が「是非会いたい」と最も強く思っていた成田真由美さん(アトランタ パラリンピック水泳金メダリスト)にお会い出来た。
しかも当社の全体ミーティング(社内研修会)で講演をして頂いた。
やはり私のイメージ通り、明るくて前向きで「思いやり」のある素晴らしい人だった。
さらっとした話し方の中に、感動を呼ぶ言葉が次々と出て来た。
「13歳のとき障害を与えられて、確かに失ったものはあります。 高い所は届かない、
歩けない、走れない、でもそれを助け合って生きて行くことの大切さを私は病気を与えて貰ったから感じることが出来た。」
「私は障害と病気を与えて貰ってから、本当にいろんなことに感謝が出来るような人間になれたと思う。 昔の自分と今の自分を比較すると、やはり命ということに感謝出来るようになった
 ので、明るく前向きにこれからも生きようと思っている。」
「暗く生きるのも自分、明るく生きるのも自分、だったら明るく生きたい。
くよくよしてなんかいられない。 自分にまだやれるものってあると思う。
残された可能性に挑戦してみたい。」
「人間、目標を持つと絶対に頑張れるし、不思議な位パワーが出てくるということを自分の身体で身を持って感じることが出来た。」
「失ったものを数える人間より、得たものを数えられる人間になりたい。」
「パラリンピックを見て驚いた種目もあったと思いますが、私達にとっては特別なことではなく、
 ただ単にその人に手がなかった、足がなかった、目が見えなかったというだけです。」
長野パラリンピックも感動の連続だった。 全ての選手が明るく前向きだった。
普通の人より、はるかに輝いていてキラキラとした花のようだった。
それは、彼等の心が豊かで、内面が美しいからだろう。
パラリンピックの選手の皆さんは大体、
「自分の頑張る姿がみんなの勇気につながれば」 というのが動機だそうです。
彼等の言葉には自分のことよりも、人に対する思いやりとか感謝の言葉が多かった。
成田さんと同じように、自分には厳しい試練を課して我々の想像を超えるチャレンジをしている。
そして、そのチャレンジが出来ることに感謝と喜びを感じている。
私はテレビで見ただけだが、実際に現地で見るとすごい迫力だったそうだ。
30度を超す斜度で、普通の人でも厳しいコースを果敢に突っ込んでくる。
そして、かなり多くの人が転倒し、怪我をしてオリンピックより遥かに多くの選手が病院に担ぎ込まれたとのこと、その勇気に感動すると聞いた。

特に私の心を捉えたのはバイアスロンの小林深雪選手とガイドの中村由紀さんの姿だった。
ガイドの中村由紀さんはインターハイ2位の実績の持ち主だから、自身オリンピックを目指したこともあったそうだ。
その中村さんが絶えず小林選手を気遣いながら時には励まし、小林さんの力を最大限に引き出すことに専念し、自分の為にではなく、小林選手の為に最善を尽くす姿に私は心を打たれた。
自分の栄光と名誉のために頑張ることは勿論大切だが、他人の為に力を注ぐことはもっとレベルの高い生き方である。 本当に優しさと思いやりがなければ出来ないことだ。
中村さんの得た金メダル(ガイドにもメダルが出る)は、技術や身体の強さではなく、心の尊さ、
優しさに培われた崇高な精神の強さのメダルである。
その他、外国選手のガイドには片手のない人がいたり、男子選手のガイドに女性が付いていたり、
これらのことについても強い印象を受け感動した。
そして、人間としての生き方について教えられることが多かった。
一方、オリンピック スキー競技の団体戦で岡部選手の活躍は、原田選手の大失敗により日本チームの沈滞したムードを吹き払う大きな貢献を果たした。
斉藤、船木両選手も自分の役割を立派に果たした。
卓球の団体戦と実によく似ていると思った。
やはり自分の役割を認識し、個々のパワーを結集することにより、チーム全体のパワーとなり、
より良い成果が生まれるものである。
原田選手は一人で失敗と成功を繰り返し、我々をはらはらさせた。
プレッシャーに弱く、ここぞというところで失敗する人間のタイプは世の中に大勢いる。
それは普通の人の多くが共有する人間的な弱みであり、それ故に原田選手は我々に親近感を覚えさせ、多くの人を力づけてくれたのだと思う。
私の目から見て、スケートの清水宏保選手は本物です。
自分のスタート前に転倒者が出て、担架で運ばれるというアクシデントがあり、中断してムードが沈みかけたが、清水選手は瞑想した後、氷上で大の字になり、心身全体をリラックスさせてスタート台に立った。
私はいつも「集中したときとリラックスしたときの差が大きければ大きい程、集中力が増す
。」と言っているが、彼はあの大舞台で、それを実行して見せてくれた。
努力に努力を重ねプレッシャーを克服し、狙って取った金メダル。 そして、オリンピックの後、
弛まずにカルガリーで行われた世界選手権で、また世界新記録を樹立した。
“小さな巨人”の言やよし、
「目標(35秒を切る)とは達成するべき結果(34秒82)です。」
「焦りと不安、おれはこの種目のスペシャリストだという自信、自分自身との闘い、
最後は迷いが消えた。」
「周囲は見えず、目の前にはイメージにある光のラインしかなかった。」
「夢っていうのは、達成しなきゃいけない目標だと思うんですよね。」
「オリンピックで金メダルを取って以来、周りがどんどん変わって行く気がしますが、僕自身
が良い方向に変わって行きたいですね。」
オリンピック後によくある有名人病と超多忙な環境を克服し、更に夢の33秒台への挑戦と次の
オリンピックを新しい目標に据えている。
このように、目標に向かって攻める気持ちに徹すると勢いが出て、パワーを生み出すのである。