謙虚さを忘れない

1998/4/01

先日、優勝祝賀会の挨拶の中で話をした山下さんのことについて、私自身も「今月の言葉」として
残しておきたいし、君達も聞いただけでは忘れてしまうこともあるのではないかと思うので、もう
少し詳しく書きます。
今年の1月ある経営者セミナーで、柔道の山下泰裕さんを紹介され、お会いした。
現役時代203連勝、国民栄誉賞に輝いた山下さん、話す言葉にも重みがありました。
「私が他の人より少しでも良かったのは、自分は目標が明確だった。」からだと思う。
目標がしっかりしていたから、自主的にやったし、積極的にやっていた。
同じ時間をやるにしても、同じ量の汗をかくにしても、自ら進んでやるか、人に動かされてやるの
か、それによって得る成果は全然違う。
熱い「志」に揺さぶられて動くとき、大きな力が出るものです。
又、目標を明確に持っていると自分は何をやるべきか、課題は何か….自分自身で分かる。
中学の頃は世界一になりたいという夢を持っていた。
高校のときには“それ”が、はっきりとした目標に変わってきた。
私には、2つの課題があった。
立技は比較的センスが良かったが、寝技はうまくなかった。
もう1つは、体重の割りにナショナル・チームのメンバーとしては基礎的な体力が劣っていた。
私の性格はコツコツやるタイプではない。 好きなことは、とことんやりたい。
嫌いなこと、不得手なことは、出来れば避けて通りたい。 そういうタイプの人間です。
でも自分の目標がはっきりしていたのでその目標に到達するためには、この課題を克服しないと到
達出来ない….だから苦手な体力トレーニングやランニングなどを、人の見ていない所でも一生懸
命やりましたし、寝技も歯を食い縛って取組んだ。
そして最終的に、それを克服することが出来た。
ロス・オリンピックで、右ふくらはぎ裂傷(肉離れ)という絶対絶命のピンチで、自分を救ってく
れたのが寝技であったし、現役の最盛期には、国内で誰にも負けない体力があった。 と語っていまし
た。
世界チャンピオンになるには何が大切ですか….との問いに対して、「謙虚さです。」….
どういうことかと言うと、「畏れを持つことだ。」と言うのです。
私はびっくりしました。
前人未踏の203連勝をした山下さんの口から「畏れを持つ」という言葉が出るとは思わなかった

勝ったとき、いつも考える。….「何故、彼は俺に負けたんだろう。」….と。
相手が何故負けたのか、その理由を考えるんだそうです。
そして、「過去は過ぎ去ったこと、これからの人生をどう生きるかが大切です。」と言って、
このセミナーに彼は講師として来ていたが、こういう機会は滅多にないので自分も是非勉強したい
と朝7:50~夜9:00の懇親会まで2日間に亘って一生懸命メモを取り、受講しておりました

非常に向学心も旺盛で、全く偉ぶるところもなく、謙虚さに溢れていてさわやかでした。
思い上がりとか傲慢とかいうのは、どういう時に生まれるのか。….考えてみよう。
それは相手の一番悪い所と自分の一番良い所とを比較することから生まれる。
私も選手時代、これが原因で負けた試合があったし、監督時代にも戦力分析の面で自軍の良い所
と相手の悪い所を比較して失敗したことを何度も経験して、このことに気が付いたものである。