「集中力の持続」が決め手

1997/7/01

先日、渋谷浩君、松下浩二君とそれぞれ個別に話す機会があった。 今回の世界選手権大会では、両選手の活躍で14年振りにメダルが日本に帰って きた。 団体戦でも苦しい戦いの連続だったが、両選手を主力として、岩崎、田崎、遊沢 各選手ともいいところで、それぞれが自分の役割を果たして、前回を上回る5位 入賞となった。
松下浩二 「今回は本当によかったな。おめでとう。飛行機のチケットも用意していたのに、 急に行けなくなって残念だったよ。」
「ありがとうございます。今回は浩がすごく良くて。団体戦でも苦しい試合が多 かったのですが、なんとか踏み堪えられました。 「ダブルスの準々決勝で中国ペアに勝ったニュースを聞いたとき、これは優勝の 可能性があるな…と思ったけど。」
「そうですね。手が届くところまでいきましたけど、ワルドナーにうまくやられ ました。」
「しかし14年ぶりのメダルで、本当に嬉しかったよ。」 「ええ、それで終わってから浩と話し合ったんですけど、シドニーオリンピック で金メダルを狙うことにしました。」 「えっ、それはすごい。すばらしいことだ。その心の若さが大事なことなんだ。 期待しているよ。」 彼は、世界の強豪選手が集まっているドイツのブンデスリーガに参加するため、 7月下旬に出発する。世界のトッププレーヤーに交わってもっともっと自分の腕 を磨き、それと同時にいろいろな「本」をたくさん読んで精神的にも充実させた
い…と言っている。
渋谷浩 佐藤監督曰く「今大会の浩は最高のできでした。あんなに心身共に充実している 浩を見たのは初めてでした。」と言っていた。 その事を本人に聞いたところ、「そうですね。集中力が途切れなかったのが良か ったようです。」
「今後の目標は?」 「まずシングルスの全日本チャンピオン、まだ1回も取ってないですからね。」 「それからシドニー・オリンピックで金メダルを狙います。」 「そうか。そういうしっかりした目標があれば、意欲も高まるし素晴らしいこと だな。是非頑張ってくれよ。」
「はい、ありがとうございます。」 私は正直いって驚いた。 選手としての年齢からいえば、もうベテランといわれる層に入る。世界のメダル にも届いたし、そろそろ潮時だろうかという話が出るのかと思っていたら、とん でもない。3年後のシドニーで「金」を狙うというのだ。

まさにこの二人は今、「青春真っ盛り」である。 私は「青春」というものは、人生のある一定期間をいうのではなくて、心の持ち 方である・・・と信じている。 年齢が若くても心の持ち方が老成している人が多くいる昨今、この二人は本当に 素晴らしいと思う。
集中力が持続するということは心も身体も鍛え抜いているからこそ出来るものだ。
スポーツでも仕事でもどんな道でも、一流になるためには、この集中力の持続が 不可欠だ。 では集中すべき時間は、どれだけ必要なのか。 司法試験(弁護士・公認会計士)では、1日8時間2年半集中してやれれば射程 距離に入るといわれている。約6000時間 スポーツの場合、どんな競技でも、大体6000時間位、集中的に努力を持続し た人は、一応世の中に認められ、スターといわれるところまではいく。
卓球の場合、世界の一流選手と互角に争うには、1日6時間×300日×5年= 9000時間が必要だろう…と私は日本チームの監督時代に荻村さんと話し合い、 定義づけていた。 では時間を費やせばいいのか…といえばそうではない。やはり、集中力の持続が 必要になる。 集中力の限界は、最初は10分~15分位だ。 それを心・技・体の成長と共に意志の力で、その集中できる時間を徐々に延長し ていくのである。 自分のプログラムを自分で作って、それをきっちりとやり遂げることが大切だ。 これは辛いことだが、ダラダラとやっていたのでは何もしていないのと同じこと だからだ。 3年間で、その時の体力と頭脳をすべて使い切り、集中力を持続することができ れば、その分野で超専門家(スーパースター)になれる。とはこのことなのだ。