並立的な考え方で技術の習得を

1999/2/01

今月は、技術面の考え方について話をしよう。
卓球には色々なスタイルがあって、個々の技術について話をしたら、一年間かかっても書ききれない。
だから、あらゆる技術を習得する為に、基本となる考え方について話をしたいと思う。
我々は、試合中、相手に対して「何が有効か」と色々なことを考え乍ら試合をしている。
観察し、判断し、把握し、記憶し、対応し、集中し、決断し、果敢に行動する。
それにより、良い内容の試合をしたいと努力する。
ある選手には、得点打となる率の高い打球でも、他の選手には失点打になる率が高いことも
起こり得る。
世界選手権のように、色々な環境から、色々な素質を持った一流選手が参加した大会では、
そういうことが実に多く起こる。
だから選手は、自分の技術のどれが得点打になる率が高く、どれが失点打になる率が高いか、試合のつど、試合の相手によって計算し、自分のラリーを構成し、試合を組み立てていかなければならない。――しかもそれは、時間によっても影響される。
同じ相手でも一年前や一ヶ月前とでは、得点打が失点打になり得るし、試合中でも、1ゲーム目
には効いたが、2ゲーム目には失点打になる…というようなことが、起こり得る可能性がある。
卓球のスタイルの価値は、絶対的なものではなく、相対的なものである。
みんなが同じようなロング戦をやるような時代に、ひょっこりと優れたカット選手が現れたら、
この選手は実力以上の成績をあげられる。
戦型の価値が相対的なものだとすれば、各々が自分という人間は、世界に一人しかいない
特徴ある人間として、自分しかない特徴ある戦型を追求していくべきだと思う。
自分は90%以上、スマッシュで得点したいと思えば、スマッシュを打つ前の色々な技術が必要
で、フォアハンド・スマッシュを打つ為の準備打として、色々な技術をやらなければならない。
フォア、バックのスマッシュを同じようにやりたいというのであれば、そこへ持っていける技術を
最初から練習していく。
ショートの場合も、相手を前後に動かし、相手の体勢を崩しておいて、
スマッシュをするという卓球をやりたいのなら、最初からそういう練習をする。
カットでやるなら、相手が狂いを生じてミスをすることを得点の60%、後の40%は機を見てスマッシュ
をするというやり方をするのであれば、それに繋がる練習をする。
要するに、必要な場面に応じての自分の得点源を中心とした、色々な技術を最初から習得して
いくことが “得点打” を中心とした、オールラウンドの考え方である。
つまり、必要な各技術を上下の関係で見ないで、並立の位置関係で見よう…ということである。
過去は、技術練習を上下の位置関係でとらえる考え方が多かった。
フォアのロングが出来ないうちは、バックハンドはやってはいけないとか、
カットが完全に出来てから、スマッシュをやれとか、私もそういう経験者の一人だった。
フットワークを鍛えて、フォアハンド一本で動き回っていた。
その後、バック側のショートを覚えて、自信が持てるようになってから、急速に卓球の幅ができ、得点準備打が多くなり、得点打に結びつくようになった。
自分の経験から言っても、フォアのロングのみで試合をしていると、グリップやフォーム、
フットワークもそういう試合をやり易い型になって行く。
ところがある時期にバックハンドやショートを習得すると、グリップやフットワークのやり方が変わる。
レシーブ時のスタンスも変わる。
この為、今迄出来あがっていたと思っていたものが、実は出来ていなかったことになり、
もう一度、グリップも、フットワークも、作戦も、やり直さなくてはならなくなる。
と言うことは、当初から色々な技術を取り入れた練習をしなければならなかったのに、
上下の関係で見ていた為に、バック側技術が遅れてしまったのである。
その為に成長も遅かったということになる。
並立的な考え方が、なぜ必要かを説明すると、色々な生理的・生態的現象を論ずる場合に、限定要因という考え方がある。
それは、「生体において、ある反応に独立した要因が、いくつか関連しているとき、この反応は、これらの要因のうち、一番遅れているものの度合いによって限定される。」
例えば、レシーブを考えた場合….他の技術は非常に優れていて、ラリーになったらポイントを上げられるのに、レシーブがまずい為に試合に負けるということがよくある。
これは、他の技術は高くてもレシーブが限定要因になって、そこから水が漏れる…
つまり、負ける原因になる….
或いは、あるチームにカットマンがいなかった為、カット打ちの練習が出来ず、対カット戦の為、優勝出来ない限定要因になる、ということも起きる。
このように、ある技術がいくら幅広く、また高いレベルであっても、どこかに限定要因があると、必ずどこからか崩れていくものである。
練習時間の効率について
能率や集中力は、個人の能力によって異なるが、脳生理学の見地から言っても、
訓練内容、訓練テーマが変わることは、生理学で言うところの「積極的休息」になる。
フォアハンド・ロングばかり毎日5時間もやっていると、後半の練習効率は著しく低下する。
だから、練習項目の配分や、練習テーマの変化は大事であると言うことが生理学的見地から言える。
そういう見地から私が世界選手権の監督時代には、各課題の練習時間帯は、
(集中力を落とさせない為)5セットマッチの試合を想定して、40分単位に区切ったのである。
現在では、これが常識となっている。
分習法と全習法
スポーツを学習する場合、分習法と全習法について、それぞれの効果が研究されている。
日本の卓球界は従来から、「ある技術を完成させることを特に重視する」分習法に頼りがちな
弱点がある。
ある技の分習を、いかに効果良く行っても、全習法によって、その前後の技との関連をしっかり取得しておかなければ試合で、その技の良さを発揮することは出来ない。
指導者も選手も、自分の将来のプレイ・スタイルについて、全体的見通しをしっかり持って、
分習の技を、より高いレベルまで極めることは、もちろんのことだが、
分習はあくまで、その前後に起こる技との関連を考えて行うことが大切である。
以上のような基本的な考え方の上に立って、明大卓球部はまず、1種類以上の新サーブ開発、サービスから3球目、レシーブから4球目等を今年前半の強化項目としたのである。