羽生善治氏に学ぶ

2018/7/01

『羽生善治氏に学ぶ』

私が会員として所属している東京ロータリークラブで、先般、国民栄誉賞を受賞された
将棋の羽生善治氏の卓話を聴かせて頂きました。以下要約して一部を紹介します。

棋士は直感、読み、大局観の3つを使って考えています。
最初に「直感」を使っています。将棋の場合、1つの場面で約80通りの可能性があり、
その中から2,3の候補手に絞り込み、9割以上の選択肢は考えません。
過去に自分が経験し、学び、習得してきたことを照らし合わせて候補手を選ぶ。
一秒にも満たない時間ですが、自分の経験の集大成として直感が使われています。

次は具体的な「読み」に入ります。シミュレーションし、展開、未来を予想します。
ただ、この直感と読みだけで考えを進めていくと、
あっという間に数の爆発という問題にぶつかります。かけ算で可能性が増えるからです。
例えば、直感で3手、相手も3手ですから3×3の9手になります。10手先であれば
3の10乗で約59,000手の可能性になり、最初に大部分の選択肢を捨てるにもかかわらず、
膨大な選択肢を前にして選択できない、決断できない状況に陥ってしまいます。

そこで、3番目に使うのが「大局観」です。これから先の方針、方向性、戦略を決めます。
大局観を使うと無駄なことを省くということができ、今は積極的に動いていったほうがいい
ということであれば、その方針に沿った選択肢を中心に考えます。
若い頃は記憶、計算に非常に長けているため読みの力を中心に考え、
ある程度の年齢、経験を積んでくると、直感や大局観を中心にするように変わっていきます。

将棋の世界で「三手の読み」という言葉があります。
三手とは、自分が指し、相手が反応し、それに対して自分が返すという
シミュレーションの基本形で、大事なのは二手目を正しく予測することという意味です。
一手目と三手目は自分の選択ですから自分が思った通りにやればいいのですが、
二手目に相手が何を指してくるか、相手の立場、価値観で予測できるか。
この予測を誤ると、それから先、1000手読もうが10000手読もうが
元々の予測が間違っているためシミュレーションとしては誤っていることになります。
決断をする時にミスもつきものです。私は年間50~60試合対局しますが、
「今日は100点満点で完璧だ」と思えることはほとんどなく、
「ここがおかしかった、ここは修正の余地がある」と思うことがほとんどです。
大事なのはミスを重ねないことです。
ミスを重ねるのは、後悔や動揺が客観性や冷静さを失わせてしまうのです。

一方で最善の手を指したから、勝負に勝てるか、ミスをしたから負けるかは、一致しません。
これは運やツキ、流れとか、目に見えるものではないし、科学的に証明されてもおりません。
とはいえ勝負の世界に生きてきて、それらはあると思っています。
常に状況や環境は一定ではなく、刻々と変わっていきます。

あまりツキに一喜一憂してしまうと、場面、状況で悔いの残らないように最善を尽くすことが
おろそかになってしまうので、私自身は気にしないようにしています。

最近スポーツ選手の方たちがインタビュー等で「楽しみたい」と答えることが
増えているように思います。本当にそのとおりだと思います。
一番よいパフォーマンスを発揮できるのは、リラックスして楽しんでいる時です。

しかし時には緊張してプレッシャーを感じることがあります。
プレッシャーがかかっている状態は決して最悪の状態ではありません。
最悪の状態というのはやる気がまったくない状態です。

私も普段の練習や研究の時も一生懸命やっているつもりですが、
最も深く考えているのは公式戦で待ったができない状況、時間にも切迫している時です。
プレッシャーの中に身を置くことで、はじめて、持っている才能や能力、
天性のものが開花するのではないかと思っています。

プレッシャーには良い緊張と悪い緊張があり、日本語には適切な表現が残されています。
悪い緊張は「身が強ばる」です。強ばってしまい動けない状態。
良い緊張の表現としては、「身が引き締まる」というのがあります。
これは良いポジションなどについたときに、よく使われる表現ですけれども、
まさにこの表現のときが一番良い状態です。

適度な緊張感や緊迫感を持った状態だと思います。
能力発揮のためには、プレッシャーを感じるくらいが丁度よいのです。

直感、読み、大局観、三手の読み、ミスを重ねないこと、運とツキ、
リラックスと適度な緊張感など、卓球の試合にも酷似しているし、あらゆる分野に通用する、
すばらしい内容であり、非常に参考になりました。