望みを叶える脳の使い方

2018/8/01

『望みをかなえる脳の使い方』

私が10年前にある経済誌を読んでいたら、林成之先生(脳神経外科医)の経歴と
講演会の案内が掲載されていました。

私は非常に興味を持ったので、早速申し込みの手配をし、
当日は最前列の先生の目の前で聴講させて頂きました。
思った通り、すばらしい内容で非常に参考になったので、直後に名刺を交換させて頂き、
後日、面会の申し入れをし、2か月後に面談の希望が叶いました。

先生は人間的にもすばらしく、リーダーシップのあり方や、実行力の重要性等々、
面談の時間はあっという間に過ぎてしまいました。

その後、先生の著書を購入し、勉強させて頂いた内容の一部を紹介します。

脳とは、人間のあらゆる能力、すべての考えや思いの発生源であり、
その幅広く、奥深い働きによって最高の力を発揮し、目標を達成したり、
望みをかなえてくれる、「頭蓋骨に囲まれた膨大な可能性のスペース」であるわけです。

世の中にはやすやすと目標をかなえてしまう人がいる一方で、
努力は人一倍するのに、なかなか目標に到達しないという人もいます。
しかし、これを能力や意志の力の差だけで片づけるのは少し単純すぎます。

仕事で目標を達成する力、あるいはもっと広く、人生において望みをかなえる力は、
多くは上手な脳の使い方、活かし方にかかっているというのが私の持論で、
脳の特性やメカニズムに基づいた賢い活用法があります。
それはやみくもな努力や要領のよさとは一線を画す、
目標達成のための科学的なアプローチなのです。
たとえば、北京五輪の平泳ぎで北島康介選手が二大会連続、
二種目の金メダルを獲得しましたが、私は同大会の直前、
競泳のオリンピックチームに招かれて、選手やコーチのみなさんに、世界レベルの勝負に
勝つための方法や心がまえを脳科学の側面からアドバイスする機会をもちました。

そのとき「勝つための脳科学」の要諦の一つ、
「一気に駆け上がれ!」ということを伝授しました。

私が助言を求められたのは、五輪選考会が終わったあと、
本番まで数か月の間がある頃でしたが、この時期、スポーツ選手は一度ペースダウンして、
その後、本番に向けて少しずつ調子を上げていくという調整法をとるのが一般的です。

しかし、私は「それでは勝てない」と、その常識的な調整法をまっこうから否定したのです。
なぜなら、人間の能力というのは「一気に駆け上がる」もので、
もっとも調子が高まったときや記録の伸び盛りのときにこそ、
さらに急激に伸ばしていける、そういう加速度的な性質をもっているからです。

ギア全開でいちばんスピードが出ているピーク時にこそ、
もっとも大きな「伸びしろ」が発生して、人間の能力は急速に伸長していく。
とりわけオリンピックに選ばれるような一流選手には、
その能力の加速性がきわめて大きいものなのです。

したがって、調子がピークを迎えているとき、記録が伸びているとき、
そういうときにこそペースダウンやリラックスするのではなく、
逆に、高い集中力と緊張感をもって、よりハードな練習、
ケタ外れの努力をすることが大事なのです。

私がもう一つ競泳チームに送った助言は、
最後の最後までレースの途中で「勝った!」と思うな。
そう思った瞬間、勝利が手からすべり落ちていくという点でした。

勝負の世界では、十中八九、手中にしていた勝利を
最後の土壇場で逃がしてしまう例がめずらしくありません。
あと一点とれば勝つというマッチポイントを迎えながら、
それからあれよあれよという間に大差を追いつかれ、逆転負けを喫してしまった。
ゴール直前まで順調に先頭をキープしていたのに、
あと5メートルという地点で、なぜか足がもつれて転倒してしまった。
あらゆるスポーツ競技において、こういう「信じられない」場面をしばしば目撃します。
それも市民大会のレベルならともかく、心身共に鍛え抜かれた一流のアスリートでさえ、
そうした最終場面での落とし穴にはまるケースが少なくありません。
これもまた、先程述べた脳の弛緩現象のなせるわざなのです。

つまり、私たちが「勝った」「やった」という達成感や完結感を覚えたとたん、
脳はその新しい情報にしたがって、思考と運動の間を緊密に連携していた神経伝達路に
一転、周囲との「間合い」を測るような調節機能を働かせることになり、
高い緊張感や集中力に支えられていた運動能力を一気に緩ませてしまうのです。

むろん、このことは運動の分野だけに限られたことではありません。
ビジネスの世界でよくいわれる、「仕事で満足したら、それ以上伸びない」とか
「これでいいと思った地点からさらにハードルを高めよ」といった戒めの言葉には恐らく、
こうした「達成意識が否定作用として働く」脳の仕組みや特性が、
無意識のうちにも、経験的に反映されているのです。

やった、成し遂げたといった達成感覚やレース中ゴールを意識しただけでも
脳の緩みにつながり、様々な能力の低下を招いてしまう―――
この落とし穴(ピットフォール)にはまらないためには、当然のことながら、最後の一瞬、
最後の一ミリまで力を抜かず、緊張感と集中力を保持することが大切になってきます。

ゴールだと思ったそこから、さらにもう一歩も二歩も「ねじ込む」ような、
強い気持ちを維持しつづけること、
それが脳の弛緩を防ぎ、もてる能力を最高度に発揮するための基本要件なのです。

仕事やビジネスにおいて、たとえどんなに大きな成果をあげたとしても、
「やり遂げた」「これで十分」といった達成感に身をひたすのはタブーと心得てください。

そうしたゴール意識は脳科学上、目標や望みをかなえるためにはマイナス作用をもたらす
「否定語」としてしか働かない。この事実をよく肝に銘じていただきたいのです。

『望みをかなえる脳』 脳外科医 林成之著より

「終盤の勝負で、大事を取るな!多少ムリでも思い切れ!!」
「リードしたら“勢い”に乗って、それまで以上に思い切れ!!」
と私は選手たちに大事な試合の前には必ずアドバイスをしてきましたが、
それが脳科学の面でも立証されたことが嬉しかった。