天才を支える隠れた努力

2000/10/01

インカレ、秋季リーグと今一歩のところで優勝を逃したことは残念だった。
終わったことは謙虚に受け止めて、その悔しさをバネに今後の大会に備えて貰いたい。
しかし、最有力優勝候補の大学に“勝ちたい”という思いを込め、8ヶ月間努力した結果、現実に大激戦の末、勝つことが出来たことは、凄い収穫であり、自信につながったと思う。
それまでの精進が間違いなく実力のレベルアップにつながったと私は信じている。
しかし、その力を本物にするか、どうかは今後の君達の努力次第であり、結果で証明する以外にない。
プロ野球史上、天才投手という名をほしいままにした江夏豊選手曰く、
「プロが言ってはいけない言葉があります。俺は努力した。時間がない。この二つです。」
努力する。頑張る。このことを否定する人はいない。
しかし、プロは結果が全てだ。
「どんなに努力しても、結果が出なければ評価されない。それがプロの厳しさです。」
そして続ける。
努力しても結果が出ないのは、そのほとんどは努力に問題があるのだ…と。
「練習の場を離れても頭から野球を離してはいけない。
 24時間、苦にすることなく野球のことを考え続ける。それがプロでしょう?」
「ご飯を食べている時も、左手に茶碗を持つ手はフォークボールの握り手、
 カーブの握り手を繰り返していましたよ。」
全ての時間は自分の成長の為に。
「そうです。集中力と工夫。この二つがプロの条件でもあります。」
天才江夏と言われて人間的には多少だらしないところがあるというのが世間の評価だった。
その天才を支える努力を私達は知らなかった。
電車での移動の時も動体視力を鍛えるべく電柱を数える。
食事中、ウエイターの動きを少しの気配で予測する。
「全ての時間を自分の技術向上へ向けるんです。
 それが必ず、いざという時に役立っている。」
私も渋谷副総監督も現役時代は電車に乗って、なるべく座ったりせず、
つり革に手をやったりしなかった。
立ったまま電車が前後左右に揺れるのをバランスをとって平衡感覚を養う訓練をした
ものだ。
どんな投手もマウンドに上がる瞬間は緊張する。
まして神様江夏豊の後年時代はリリーフエース。
緊張が極限まで高まった状態で登板する。
「緊張感を闘争心へと変えるのが日頃の練習です。練習というより想像です。」
一度たりとも練習で想定(イメージ)しなかったケースは現実の場面にはなかった。
いつマウンドに上がっても練習で擬似体験したシーンだった、と江夏投手は言う。
集中力、工夫、そしてイマジネーション。
この三つが天才江夏豊を創ったのだ。
時間がない…と言う人は多い。
そうではない。日常の全ての時間、それが君に与えられた時間なのだ。
本当に疲れ果てた時、無意味な時間を持つこともいい。
“無為を為す”という言葉もある。
そんな時間にホッとすることもあっていい。
でも意識して無為の時間の半分をテーマを決めて自分の為の時間にしてみることだ。
集中心と工夫。そして想像力。
時間は自分で創り出すものだ。