貴乃花関の復活に思う

9月22日に千秋楽を迎えた大相撲で横綱貴乃花は1年4ヶ月ぶりに出場し、

武蔵丸との横綱同士の相星決戦を闘った。負けはしたが全員が彼の活躍を称えた。

大怪我をしてフランス迄行って手術を行い、治療に専念して必死に回復に務めてきたが、

理事長や横綱審議委員会からも勧告を受け、出場に踏み切らざるを得ない状況に

追い込まれての出場だったにも拘らず、日に日に足腰も安定し、

相撲勘も取戻しつつあるのが誰の目にも分かってきた。

私は5月場所後のニ子山部屋ゴルフコンペでスタート前の挨拶を頼まれ、次のように話をした。

「貴乃花関が世間やマスコミから、どのような批判を受けようとも、怪我を完全に治して

万全な状態に体調を整え、出場するからには強い横綱として復帰して貰いたい。」

と挨拶した。

今回の貴乃花関の相撲ぶりを見てつくづく感じたことは、

スポーツにおける勝負の世界では心・技・体のうち、

やはり最も重要な要素はメンタルのタフネスさである…

ということを再確認したことである。

スポーツの舞台からは、数々のドラマが生まれる。

松下浩二が初優勝をかざった時の全日本選手権準々決勝での14―20からの

大逆転など、私たちは、選手が技術や体力を超えた何かもっと大きな力に

かきたてられるように感じることがある。

100パーセント、いや120パーセントの力を発揮させる不思議な力―。

それは、“神がかり”でも“奇跡”でもなく体の内部で起こる変化、つまり、

メンタルな要素にほかならない。

スポーツでは、心の中で起きている変化がそのままプレーに表れる。

それ程、メンタルな要素は直接試合の結果に影響を与える。

試合でプレーするのは、肉体ばかりではない。

肉体を動かすのは心である。

その心が異常なまでの興奮状態に入るまでには、とてつもない不安、恐れ、孤独感、

自己不信など、様々な葛藤をくぐり抜けなければならない。

それらのマイナス要素をすべて乗り越えた時、

選手は理想的な興奮状態を得ることができるのだ。

不安や恐れが大きければ大きいほど、乗り越えた時の充実感や集中力もまた、

深く強いものである。

今回の貴乃花関もこのような心の状態で15日間を戦い抜いたのだと思う。

千秋楽当夜、ニ子山部屋の打ち上げパーティーで貴乃花関は非常にさわやかな笑顔で

出席者全員と明るく話に花を咲かせていたのが印象的だった。

一流選手が観客を熱狂させる好プレーを展開するまでの心理と行動を綿密に分析すると、

そこには必ず一定の法則がある。

外部からの刺激を含めて、彼らはすべての要素をプラスに転換し、極度な集中状態に

自分を高めていく術を知っている。しかし、それは、たいていの場合、

無意識に行われている。無意識だからこそ、そうした自己コントロール法が一般化され、誰にも応用できる形で継承されることがなかった。

スポーツ心理学の権威として知られているジム・レーヤ-は、

そのメカニズムを徹底的に解明し、意図的に“もうひとりの自分”に出会うための

システムを発表した。

もうひとりの自分とは、本来は持っていながら、その力をコンスタントに発揮できない

理想的な自分のこと、いつもその理想的なもうひとりの自分が試合に臨みさえすれば

最高の状態でプレーができるのである。

それが、メンタル・タフネス・コントロールだ。

メンタル・タフネス・トレーニングとは“根性をつける”とか、“精神力を鍛える”という

意味でなく、誰もが潜在的に持っている精神的な強さを効率的に発揮し、

自己のパフォーマンスを飛躍的に高めるためのトレーニングである。

メンタル・タフネスとは、練習によって誰でも身につけることのできる“技術”だ。

だからこそ誰にでも習得可能で、練習次第でいくらでも効果はあがる。

スポーツマンなら誰でもゾクゾク震えるような状態を感じながら、

異常なまでの集中状態のなかでプレーがしたい、と夢見る。

究極の自分、究極のプレー…。

その究極へたどり着くための究極の方法がメンタル・タフネス・トレーニングである。

彼はアメリカ各地はもとより、各国の一流選手やコーチからの率直な意見を聞いて、

「会心のプレーを支えるのは、70%、いや90%はメンタルな要素だ」

と答える選手やコーチが殆どだった…といっている。

ところが、メンタル・タフネスの強化にかけている時間は「全体の練習量の5~10%」

という答えが殆どだった。しかもその強化方法はまるで曖昧だった。

理由は簡単だ。

複雑な心理構造の実態がつかめないし、メンタル・タフネスの強化法がわからない。

だから鍛えたくても鍛えられない、それが現状だったのである。

次号から彼の開発したメンタル・タフネス・トレーニングの根幹を君達に紹介し、

立ち遅れていたスポーツ心理学を身近で有用なものに発展させる

きっかけにしてもらおうと思う。

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