考える鉄人 室伏 広治選手 (ハンマー投げ)に学ぶ Ⅱ

百メートルなら10秒の壁、棒高跳びなら六メートルの高さ―。陸上界でこれを超えると

世界の一流と認知される。これに匹敵するハンマー投げの記録は80メートル。

 「1998年春に日本記録を破ったあと、何度も日本記録を更新したのですが、

80メートルの壁は本当に高かった。

コツをつかんだと大喜びしても翌日になると投げられない。その繰り返し。

あの苦労、苦しさがようやく実を結びました。80メートルは本当に夢でした。

大変な思いをしたからこそすごく大きな喜びでしたね。」

 「苦労する中でいろんな感覚が養われたと思います。「大きな船が大きな航海をなす」

これは元世界王者のアブドワリエフのアドバイスなんですが、

自分の座右の銘にしています。大きな船でないと荒海で遠くまでいけない。

二年間、沈没しない材料を探し求めていたという感じです。」

試合で初めてできることなど少ない。練習がほとんど勝負を決めます。

練習のおおよその流れはあるにはありますが、その時の状況で変えます。

ウエートトレーニングも投てきも量は自分が納得するまで。やる前には決めません。

何事もそう。自分の心と体の変化はその場で気づくもの。

決めつけると変化についていけなくなりますから。」

 「冒険も必要です。安定を求めたらだめなんです。感覚は常に変化します。

ひとときもとどまっていない。いい記録が出たら、これでいこうというのではなく、

自分自身を揺さぶるように、一回、一回工夫をする。安定していたらなまけてしまう。

練習では気持ちを込めて絶えずシミュレーションしています。

そんな練習姿勢が80メートルに到達した理由だと思っています。」

 広治氏にとっては80メートルも通過点だった。シドニー五輪の悪夢から一年。

2001年8月のカナダ・エドモントンでの世界陸上選手権で日本人の投てき種目で

初めてとなる銀メダルを獲得した。記録は82メートル92。ライバルに触発され、

まれにみるハイレベルな試合だった。

 「ライバルという単語には嫌なイメージがありましたが、本当のライバルとは何かを

学んだ気がします。ジオルコフスキが伸びれば自分ももっと強くなる、と初めて

心底から思いました。」

「ハンマー投げは、格闘技のように相手にぶつかって倒すことでも、球技のようにミスを

誘って勝敗を決めるものでもありません。一番重いボウリングのボールと同じ重さの鉄球をただ遠くに飛ばすという単純で正直なスポーツです。

 それがものすごく難しい。無理やり力任せにやってもまるで飛ばない。

苦労してうまくいった時の感覚は、まだだれにも発見されていない自然現象を

見つけたような感じです。

 「なにしろ奥が深い。ハンマー投げはアイディアを膨らませてこつこつ技術を追求して

表現するスポーツです。ものづくりをする職人さんと同じ喜びかもしれません。

新しい感触を得たときは、このうえもなく幸せになります。

 「自分は最近、子どもたちに教える機会もありますが、スポーツの重要性を

つくづく感じます。一人でハンマーを黙々と投げていると、

自分の内面がよく見えてくるんです。

 説明しにくいんですが、我慢をおぼえたり、勝者をたたえたり、

人間的に成長していくところはいっぱいある。

そういったものがなければ、自分自身もハンマー投げをやっていないかもしれません。」

(日本経済新聞より抜粋)

≪≫

「大きな船が大きな航海をなす」という言葉は、大きな選手になるには、

心・技・体の基盤となる根っこの部分が深く大きくなければならない…という意味であろう。

彼の言葉の中には、スポーツマンとして価値あるエキスがいっぱい詰っている。

それぞれいろいろな感じ方があると思うが、是非参考にして貰いたい。

丁度、今、この「今月の言葉」が出来上がった時、室伏選手がプラハ国際陸上で

世界歴代3位の快記録で、しかも今季世界最高で優勝というビッグニュースが入ってきた。

逆転し、逆転され、5投目で又逆転しての優勝。

そして「コンディションはいつも違う。練習からいろいろなことを想定してやっている」

「しっかり復習し、また、自分の動きを練習したい」と、すぐに求道者の表情になっていた。とニュースは伝えている。

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