横綱貴乃花の引退に思う

貴乃花関と二子山部屋には明治大学卓球部としても特別な思いがある。

卓球部の選手を連れて何回も朝稽古を見学させて頂き、

その後、チャンコをご馳走になったりもした。

朝早くから若い力士が順番に物凄い迫力でぶつかり稽古をするのを見ているだけで、

圧倒されてしまうが、そこに貴乃花関が入ってくると

一瞬にしてピーンと張り詰めた空気に変わり、

稽古場全体が何ともいいようのない一種独特な雰囲気が漂うのである。

稽古場に立った彼は全く休むことがない。常に体を動かし120kg以上の若い力士を

肩車にしてスクワットをやるなど、驚くばかりの練習量をこなしているのを見て、

貴乃花関の強さの秘密を知ると共に感動さえ覚えたものである。

その平成の大相撲を牽引してきたスーパースターの勇姿が

ついに土俵上で見ることができなくなった。

逆境に立つほど奮起し、数々のドラマを生んできた貴乃花関の引退は

私にとっても寂しい限りである。

昨年10月号でも書いたが、進退をかけて8場所ぶりに再起した昨年9月の秋場所後の

パーティでは非常にさわやかで明るかった。

「これからも、ファンの皆さんに“感動”を与えられるよう精進していきます。」と語っていた。“感動”は貴乃花関の相撲人生のキーワードだったのではないか。

難局に直面するほど、驚くくらい底力が出た。

横綱は昇進するときはすべての人が祝福してくれる。

しかし、辞める時は一人で決断するしかない…とよくいわれる。

01年夏場所14日目全勝の貴乃花関が武双山戦で負った右膝の怪我は

一年以上たっても完治しなかった。

宿舎で膝裏の「灸」治療の煙が原因で火災報知機が突然鳴り出したことがあったという。

貴乃花関は人知れず、あらゆる方法で「古傷」と闘っていたのである。

今年強行出場した初場所の2日目には左肩を負傷し、満身創痍で最後の土俵を務め、

5日目からの再出場は「相撲をとってから辞めたい」という

横綱貴乃花の最後の意地だったのではないだろうか。

「横綱の存在とは」と問われて、「常に自分の力を十分に発揮し、

勝つことを前提に土俵に立てる精神力が大事」と語った。

重みのある言葉である。

(財)日本オリンピック委員会は優秀な競技者の条件を次のように定義している。

①自己管理能力の高い競技者

 優秀な競技者とは自分のことはすべて自分で管理し、また、責任を持つことができる。

  「自立」の精神を絶えず持っている競技者である。

②質の高い経験と成功を積んだ競技者

質の高い練習⇒競技⇒反省⇒勉強⇒準備を積み重ねることこそが大切である。

   経験と成功なくしては、真の自信は沸いてこない。

   質の高い経験を積み重ね、自分は相手より勝っている、という感情の深みから

   生まれる気持ちが成功を生み、そこから真の自信が芽生え更なる努力によって

   開花する。

全国大会、国際大会出場の価値観、オリンピックへの精神、

自分自身が全身全霊を打ち込んできたことを自ら確認し、自分自身を見つめ直す。

そして、更に、新しい自分を発見し、自分自身の更なる飛躍のための強固な基盤とする。

大きな大会に出場することで、選手は一回り大きくなる。

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