日本卓球界の功労者 藤井基男を偲ぶ

4月26日、午後5時33分、藤井基男さんが亡くなられ、

私は茫然として、淋しさに襲われました。私が心の底から尊敬する、

親しい友人でした。 その日は大阪にいて、「明日お見舞いに行きますから」と奥様に約束した日でした。 奥様が病院に行き、「明日、兒玉さんが来てくれますよ」と報告をしたら、 「ニコッと笑って嬉しそうでした。そして、昼頃まで話もしていたのですが、

午後から急変して、今息を引き取りました。」と連絡を頂き、

何とも言えぬ虚脱感に襲われました。

藤井さんは、戦後日本卓球界発展のためには、

なくてはならない存在でありました。選手としても、

指導者としても一流でありながら、物事を具体的にまとめていく

事務能力は抜群の人であり、日本のみならず、世界の卓球史で、

大事な節目のエピソードは殆ど知らないことはないという、 生き字引でもありました。

ひらめきと発想と行動力の優れている

荻村さんが表の舞台のリーダーとすれば、 藤井さんはそれを具体化し、ピチッと事務的にまとめていく、

裏の舞台の立役者。このお二人の絶妙のコンビで、

現在の日本卓球界の隆盛を築き上げて頂きました。 一人として、異論を唱える人はいないでしょう。

荻村さんと私が初めて監督を務めた

‘65年の世界選手権リュブリアナ大会の合宿では、 球史に残る厳しい内容の濃い訓練をやりましたが、 その時も藤井さんは、腕が腱鞘炎になりながら、

選手のためにご尽力頂きました。 この大会で、深津選手が、世界チャンピオンになれたのも、 藤井さんのお力がなければ果たせなかったものと思っています。

総監督兼男子監督を務めた‘75年の世界カルカッタ大会では、

藤井さんに指導陣として加わって頂き、合宿中も、

大会中も常にツインルームで同宿し、毎日毎日、

日本卓球界の将来について語り合ったことも、

忘れられない思い出です。

そして、その翌年、藤井さんは一年間の予定で

サウジアラビアへ卓球指導のため、出掛けました。 中近東の卓球連盟の加盟国は、21カ国で、当時のサウジは

最下位の成績でしたが、1年後には優勝の常連国に育て上げました。

その間、何度となく手紙のやり取りをしましたが、藤井さんは 「兒玉さんがこんなに文才があるとは、全く知らなかった。 日本の経済の情勢や卓球界の様子が手に取るように解って嬉しい」

などと返事を貰って 嬉しかったことを懐かしく思い出します。その後、

この一言が私にとって大きな自信になりました。 藤井さんは、本当に褒め上手な人でした。 荻村さんが専務理事になり、新しい施策をやり始め、

周囲の風当たりが強かった時も、 二人で防波堤になって、徹底的に彼を支えよう

と誓い合ったりしました。

名球会は、荻村さんが国際卓球連盟の会長就任の3年後、

田中利明氏が日卓協の強化本部長に 就任した年、昭和から平成に変わった平成元年(1989)に誕生しました。 荻村、江口夫妻、田中、藤井、兒玉が呼び掛け人となって、 1950年代の“戦友”皆さんに発足の呼び掛けをしました。 プロ野球にも「名球会」はあるが、あちらは国内の成績で資格を決めているが、

我々は世界で活躍した人の集まりだから、真の「名球会」と呼ぶのにふさわしい

という、荻村提案で名称が決まりました。以来20年間、

藤井さんと共に幹事役を務めてきました。

今年の名球会は、伊勢神宮に特別参拝することで、

藤井さんも参加の予定でしたが、その直前に 先週3日寝込み、食事も出来ず、医者へ行ったら、胃ガンが膵臓、肝臓に加えて、

両肺に達したとのこと。それ以来、普通に歩くことが出来なくなりました。去年、

名球会の冊子をまとめておいて良かったと思っています。幸いにして、

頭と食欲は今のところ大丈夫ですので、毎日を「楽しく」過ごしています。 皆さんによろしくお伝えくださいというFAXを頂きました。

私は、直ぐに成田の自宅を訪問しました。 本当に足だけが問題で、あとは凄く元気で、 兒玉さん、うなぎにしますか? スパゲッティにしますか?美味しい店があるんですよ という第一声でした。 私も驚きましたが、嬉しくなって、違う種類のスパゲッティを二人でシェアして、

ご馳走になりました。サラダもスープも食べて、

今日は久し振りに美味しいな。こんなに食べちゃったと言っていました。

「足が思うように歩けないだけで、頭は冴えているし、

本も読めるし、執筆活動も出来るので、楽しくやっています。 “日本卓球史”が今迄なかったので、これも完成して、ボランティアで

日本卓球協会に提供して今日の午後、担当者が来て、

校正して終りです」と言っていました。

達感して、すごく元気でした。

私の家内は「藤井さんて、昔の武士のようですね」

と表現しておりました。

寿命に限りがあるとはいえ、今更のように無常を感じます。 日頃、教えられることの多かった私は、

一人の師を失った感慨、尽きぬものがあります。 永い間、本当に有難うございました。 心から、ご冥福をお祈り申し上げます。

卓球知識の泉   藤井基男著                      卓球王国 荻村さんの夢   上原久枝、藤井基男、織部幸治「編」   卓球王国 卓球物語       荻村伊智朗、藤井基男 共著        大修館書店

これらの「本」は、是非読むことを薦める。 君達の卓球人生に必ず役に立つと確信する。

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